ステンドグラスから柔らかな光が差し込む階段を登って二階へ。
二階の窓際に設えられた棚には、ガレによる花器がずらりと並べられています。
自然光を受けて煌めくガラスたちは、ショーケースの中でライトで照らされた状態で見るのとはまたひと味違う美しさでした。
ガレの作品は、年代によってスタイルが変遷していくところが面白いです。
1870年代後半(30代前半頃)は日本や中国の作品をそのまま転用したようなものが多いのですが、これが徐々に西洋スタイルと融合してゆき、後期になると昆虫や植物の形態をそのまま表現した作品となってゆきます。
ガレが死の直前に製作したベッド『曙と黄昏』。
ヘッドボードには黄昏時に蝶が落ちて行く様子、フットボードには蝶が舞い上がる姿が施されています。
(蝶というより蛾のように見えますが、フランスでは蝶と蛾を区別しないようです)
グロテスクで薄気味悪い印象を受ける方もおられるかもしれませんが、私は今回、13年前にこれを見た時とは違う感動を覚えました。
というのも、つい数ヶ月前、「蝶はあの世とこの世を繋ぐシンボルである」とある本で読んだところだったからです。
ガレがそのことを知っていたのかどうかは定かではありませんが、この時既に白血病を煩い死を予感していたガレは、自身のあの世への旅を前に「死と再生」の意味合いをこの作品に込めていたのではないかと思います。
晩年の作品には生物の命の儚さを表現したものが数多く、「もののあはれ」(人生の機微や四季の自然の移ろいなどに触れた時に感ずる優美で繊細なしみじみとした情趣を意味する)を理解していたのでは、と言われるガレだけに、「輪廻転生」といった東洋思想をも理解していたのではないかと、この作品を通して感じました。
ステンドグラスが施された優雅な浴室。
浴槽も立派な美術品です。
壁やカーテンの色合いがマホガニーの家具と見事に調和しているところなど、流石フランス人、魅せ方が心憎いです。
光の入れ方も絶妙です。
この美術館の魅力は、19世紀末の時代に誘われたような感覚を味わいながら、作品との対話に集中出来るところだと思います。
どこか摩訶不思議で幻想的なこの空間は、異次元に迷い込んだような気分にさえなります。
いつの日か、またこの世界を訪れることが出来ますように。。。