2011年8月17日水曜日

アフリカンな助産師さん 〜英国自宅出産体験記⑤〜


初めてイギリスの産科で受診した時のこと。

この日の助産師さんは、アフリカ系の陽気でお喋りなFさん。
サバンナで10人位子供を引き連れてそうな、肝っ玉母さん的女性です。

まずはじめに問診をされたのですが、既往症の有無やこれ迄の病歴、一人目と二人目のお産の状況、家族の病歴など、かなり細かい質問を受けました。
数ページに及ぶ問診票の記載が終わるのに、1時間近くかかった気がします。

この日は夫も一緒にいたのですが、予想以上に時間がかかるので、
「この調子では息子の学校のお迎えに間に合わない」
「どうする?」
などと二人であれこれ相談していると、
「御主人が今から車で息子を迎えに行って、貴方は後からタクシーで帰ればいいのよ!」
とすかさずFさん。
彼女の仕切りっぷりに圧倒されつつも、
「はい、そうします」
と即答。
この時何となく、
「どんな問題が生じても、この人なら臨機応変に対応してくれそうだな〜」
と、Fさんに対する信頼感が湧きました。

さて、産科の問診は今回が3カ国目。
(一人目の時、妊娠初期は日本に居たので日本の産院で問診を受けたこともあります)
どの国でもお腹の子の父親に関する質問を受けたのですが、この質問の方法が三者三様なのです。

日本の産院では「結婚・・・されてますよね」としか聞かれなかったところが、
アメリカでは直接問診票に「結婚している・シングルマザー・離婚調停もしくは別居中」いずれかに○を付ける・・・といった具合。
それが今回のイギリスでは、「お腹の子は夫の子か?」ときた訳です。
余りの直球ぶりに一瞬たじろぎつつ、「はい」と答えたのですが、
「でも、本当のところは誰にも分からないよね。ガッハッハ〜!!」と笑い飛ばされる始末。
確かにこの段階で確認のしようがないんですけどね。。。
この時夫はたまたま外で電話をしていて席を外していたのですが、もし同席していたらどんな顔をしていたことでしょう(苦笑)

問診が一通り終わり、自宅出産を希望している旨を伝えると、
「自宅出産、いいわね!今回は3人目だし、これ迄のお産も特に問題がないみたいだから大丈夫でしょう」
と、あっさりOK。

その後の診察も助産師さんが自宅まで毎回来てくれることになり、小さな子供のいる私にとってはこれが非常に助かりました。
私がお世話になった病院(NHS 国立病院)では、周辺地域をグループ分けし、レッドチーム、ブルーチーム、グリーンチーム。。。といった具合に数人の助産師がチームを作って、担当区域の妊産婦を持ち回りで診察するシステムになっています。
自家用車で各家々を周る助産師さん達。
中でもFさんの携帯電話はひっきりなしに鳴り響き、妊婦さんや仲間の助産師さん達とのやりとりに大忙しです。
その都度テキパキと指示を出すFさんの様子を見ているうちに、
「この方はきっと皆から頼られる存在なのだろうな〜。この豪快な笑い声を聞いていたら本番の痛みも吹き飛びそう。出来ることならFさんに取り上げて貰いたい」
と、更に親近感を抱いてしまいました。

残念ながら、出産当日はFさんは休暇中で取り上げて貰うことは叶わなかったのですが、産後に休暇の合間を縫って様子を見に来て下さいました。

この日はいつもと違い、鮮やかな刺繍の施されたアフリカの民族衣裳に身を包んで現れたFさん。
丁度イスラムのラマダン期間中で正装をされていたようで、生まれて間もない娘を抱き上げ優しく語りかけその姿は、まさに私の思い描いていたアフリカの肝っ玉母さんそのもの!

一通りの診察を終え、記録をつけようとカルテを開かれたのですが、
娘の誕生日を確認するなりFさんが突然驚きの表情に。
「なんてことなの!この日は私と夫の結婚記念日だったのに、すっかり忘れてたわ!!去年結婚したばかりなのに私も夫も忘れてるなんて〜!ガッハッハ〜!!」
と、またもや大爆笑。
なんでも若い頃に前夫を亡くされ、女手ひとつで2人の子供達を育て上げ、去年再婚されたとのこと。
Fさんの逞しさの裏にはそうしたご苦労があったこと、仕事もプライベートも前向きにガムシャラにこなしてこられたことが垣間みられた瞬間でした。

最後の往診だったこの日。
Fさんと会えるのもこれで最後なのかと思うと少し寂しい気持ちだったのですが、玄関の扉を開きながら去り際に
「で、4人目はいつ産むの?」
とFさん。

そんなこと言われたら、また産みたくなっちゃうじゃない。。。

明るく清々しい別れの挨拶に、一層胸が熱くなってしまいました。



〜この数日後〜

帰宅するなり、

「あぁ、、、今年初めて忘れてしもたわ。。。」

と夫。

「あっ、そういえば、そうやったね!私も忘れてたわ。今年は出産で忙しかったからね。」

「美紀は毎年忘れとるやん。」


Fさんが訪れた次の日は、私達の7回目の結婚記念日だったのです。
あの時、Fさんと一緒になって笑ってる場合じゃなかったんです。。。



人気ブログランキングへ